日本における子どもの相対的貧困率は近年上昇し続けており、2016年現在16.3%と、およそ6人に1人が「子どもの貧困」状態にあると言われている。一方で、「相対的」な貧困率であることから、食べるものや着るものにも困るというほどではないケースが多いため、周囲からは見えにくい問題でもあった。
この問題を社会全体で自分ごととして捉えようと、子どもの貧困をこのまま放置した場合の社会的損失の推計を日本財団が少し前に発表し、話題になった。その推計結果は、0〜15歳の子ども全員を対象に行うと、なんと所得の減少額が42兆9000億円、財政収入の減少額が15兆9000億円にも達する。この推計方法や考え方などについては、先日出版された文春新書『子どもの貧困が日本を滅ぼす』に詳しく解説されている。
徹底調査 子供の貧困が日本を滅ぼす 社会的損失40兆円の衝撃 (文春新書)
- 作者: 日本財団子どもの貧困対策チーム
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2016/09/21
- メディア: 単行本
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ひとり親世帯や生活保護世帯、児童養護施設の子どもたちは、大卒または短大・専門学校卒の割合が20%前後と、非貧困世帯約65%に対してきわめて低く、また高校中退や中卒の割合も高く、その分就業率の低さや生涯賃金の相対的低さにつながっている。これに対して、何らかの有効な対策を行った場合、大学進学率が22%改善するというシナリオで、上記の推計が行われている。22%というのは、米国で子どもの貧困対策が測定研究されたアベセダリアンプロジェクトの結果を踏まえた数字だ。
貧困環境にある子どもへの有効な対策が行われ、大学進学率などが上昇することで生まれる所得の差は当然、支払われる税金や社会保険料にもかかってくる。結果的に、個人の問題だけに留まらず、政府の財政収入にも大きく影響し、日本社会全体に影響することになる。
同書では、上記のアベセダリアンプロジェクトのほか、米国でランダム化比較試験の研究手法を導入して効果測定を行った子どもの貧困対策の研究が3つ事例紹介されている。日本ではまだそういった効果測定までされた政策研究がなく、参考になる。いずれの研究も、なるべく早い時期の幼児期に処置をとることで、その後も長い効果が得られること、そして、測定可能なIQなどの学力だけでなく、誠実性ややり抜く力、社会性などの「非認知能力」がその後の人生に大きく影響するという研究結果が示唆されている。
貧困対策というと、大人になってから、職を失ってから、職業訓練や生活保護費の支給などの対策が想像されがちだ。もちろん、そういった対策も必要だが、川の下流で対処療法的な対策だけをしていても、一向に問題の根は断てない。貧困の原因となっている上流や源流でなるべく早いうちに対策をとることで、よりコストパフォーマンスの高い対策をとることができるのではないだろうか。個人に対しても、その人の人生に「見えない」救いになるはずだ。
日本は子どもに対する公的支出や家族関係社会支出が他の先進諸国と比べて低い状況にある。子どもの貧困対策をしっかりとることで、子ども一人ひとりに少しでも明るい未来が開けるだけでなく、日本社会にとってもよい効果をもたらすだろう。
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