国による給付型奨学金制度を新たに創設し、月3万円とする案が自民党や文科省で検討されているという報道があった。時事通信の記事を一部抜粋すると以下の通り。
大学生らを対象にした返済不要の給付型奨学金創設に関し、政府・自民党は21日までに、月3万円を軸に給付する方向で検討を始めた。
高校の成績が5段階評定で平均4以上など対象者の基準を設けるが、家庭事情の影響などで満たせなかった高校生らを救済するため、学校推薦制度の併用も検討している。
この検討案に対して、「月3万円では国立大学の授業料も払えないので少なすぎる」、「成績平均4以上の基準では学校によってばらつきがあるので不公平」といった批判の声もあがっているようだ。こういった批判の気持ちは分かるが、財源の制限があることを考えると、まずはスタートとして妥当な案であると評価したい。
まず月3万円が少ないかどうかだが、まず批判の例であるように、大学授業料をまるまる支払うとなると国立大学でも年間54万円で、月3万円年間36万円では授業料分だけでも足りないことになる。しかし、実際には低所得層には大学授業料免除制度があり、国立と私立で合計15万人が全額または半額が免除されている。
私も実際に大学時代に授業料免除の恩恵を受けていた。また、民間の山岡育英会という財団から月3万円の給付型奨学金を受給し、貸与型奨学金を月8万円借りて、さらにアルバイトをしていた。親から仕送りがない、あるいは親の借金を背負っているような低所得層は、そのように、様々な方法で学費や生活費を工面しているのが現実だ。これを一気に全て給付型奨学金だけでカバーするのは、日本の財政事情を鑑みると現実的ではないので、月3万円の給付は妥当なラインであるように思う。実際に私も3万円の給付はかなり助かったし、その分だけアルバイトの時間を削ることができた。
次に一定の成績基準を設けるかどうかだが、これも国民の税金を財源とする以上は、ある程度の基準が必要であると言わざるをえない。日本学生支援機構による無理利子の第1種奨学金の貸与基準が成績3.5以上であるので、それよりも上の成績の基準を設けることは頷ける。あとは、実際に低所得層の進学者がどの程度のその成績基準を超えられているのかは分析のうえ、決定すべきだ。
ところで、給付型奨学金が新たに創設されることは大きな一歩てあることは間違いないが、昨今批判的に論じられることの多い、貸与型奨学金の返済の問題がそれで解決するといわけではない。給付型奨学金の対象者は報道によると約2.5万人と推計されている。大学授業料免除の対象者よりも少なく、貸与型奨学金を借りている現役学生約120万人と比べると、わずか2%だ。さらに、卒業して返済中の者には、新設される給付型奨学金の恩恵がいかないのは言うまでもない。
そう考えると、あたかも「奨学金問題の解決策」のように論じられるている給付型奨学金制度の新設は、ごく限られた人数の低所得層への救済策であり、実際には返済に苦しんでいる大多数には関係のない制度であることが分かる。とはいえ、低所得層には大きな意味のある制度なので、妥当な進展であることも間違いではない。
以前から提言しているように、奨学金問題において大多数にとって意味のある制度なのは、奨学金返済分を医療費や住宅ローンのように税控除に計算できるようにすることだ。そうすると、現在返済中の方も、これから借りる方にとってもメリットのある制度となる。
給付型奨学金の新設と合わせて、奨学金返済分の税控除については引き継ぎ提言していきたい。
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