「奨学金」への過度な期待と甘えの構造
“奨学金返せず自己破産、40歳フリーター 月収14万円「283万円払えない」”という西日本新聞の記事がヤフーのトップページに掲載され、話題を呼んでいた。記事によると以下の通り。
男性は父親が事業に失敗した影響で、1990年の高校入学時から大学卒業まで日本学生支援機構から無利子の奨学金を借りた。高校時は毎月1万1千円、大学時は同4万1千円で、当初の返還期間は93年12月から2012年9月。多いときで年約16万円を返還する計画だった。
だが、大学3年時に精神疾患を患ったこともあり、大卒後に就職できず、計9万2千円を支払っただけで滞納。アルバイトをして生計を立てる生活で、返還期間の猶予も受けたが、返せなかったという。昨年8月、返還を求めて機構が提訴。同11月、未返還の奨学金と延滞金の計約283万円の支払いを命じられた。
奨学金の滞納者(1ヶ月以上)は現在33万人、近年その数が急増していることは事実だ。ただし、これは全体の返済率が悪化しているわけではなく、貸与奨学金のニーズの高まりに合わせて貸与者という分母が急増しているいるからだ。実際には、返済中の300万人のうち、3ヶ月以上滞納しているのは約20万人で、その割合は約6%と年々減少している。
上の記事の例でいうと、自己破産自体は毎年10万件が発生している。それでも2003年の24万件をピークに減少してきているが、それだけ多くの人が借金を返せずに苦しみ、自己破産という選択を余儀なくされているのが日本社会の現実だ。そういったことはあまり報道されることはないわけだが、一方で貸与奨学金が原因で自己破産に至ってしまったら、1件でもトップニュース扱いとなる。社会は、同じ借金でも、「奨学金」という名前に対して過度な期待を寄せすぎてしまっているのではないか。
世の言説では、滞納者の急増ばかりにスポットが当てられ、奨学金が「サラ金よりも悪質」とか「狂っている」とかいった論調が強いが、そういった「奨学金」への過度な期待と甘えの裏返しからくる「奨学金悪玉論」だけでは、この問題は解決には至らない。
奨学金にも給付型と貸与型があること。貸与型奨学金は借金であり、返還の義務があること。そういった基本的な知識と金融リテラシーを借りる側も高める必要がある。日本学生支援機構の調査によると、奨学金を延滞している人の45.3%が、借りる手続きを行う前に返済義務があることを知らなかったと答え、無延滞者が9.4%だったのに対して極めて高い。この返済義務を知らなかった割合は、延滞者に限ると貸与中であっても20%にものぼる。衝撃の調査結果だ。
いくら「貸与型」と明記し、返還義務があることを説明しても、「奨学金」という名前が、誤解と甘えを与えているのであれば、「学生ローン」などの名称に変更したほうがよいのかもしれない。
そのうえで、奨学金制度だけ槍玉に挙げるのではなく、社会全体の制度と政策の改善を検討すべきだ。大学授業料の高騰を抑制すること、授業料減免の拡大、私立大学の急増と大学進学率の上昇にともなう高等教育の役割の見直し、大学中退の予防、夜間コースやオンラインコース、コミュニティカレッジなど多様な選択肢の設計、奨学金返済分の所得税控除制度導入、非正規雇用の待遇改善、新卒一括制度の見直し等々やるべきことはたくさんある。
奨学金は、無利子または利率の低い国の金融制度の一つに過ぎない。ただし、奨学金という切り口から社会全体の構造の問題が見えてくる。その全体像を分析し、一つ一つの制度を改善していかなければ真の問題解決には至らない。メディアにもそういった論調を求めたいところだ。
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