まなブロ by 教育イノベーター本山勝寛

教育イノベーター本山勝寛の学びのススメ日誌。極貧家庭から独学・奨学金で東大、ハーバード大学院に通い、国際教育政策修士課程修了。日本財団子どもの貧困対策チームリーダー。『今こそ「奨学金」の本当の話をしよう。』 『最強の独学術』等著書多数。

NHKクロ現が提起した「漫画家たちの模索」と「福島を描くこと」

先日6月2日、NHKクローズアップ現代で、「いま福島を描くこと〜漫画家たちの模索〜」という特集が放送された。「美味しんぼ」の鼻血表現騒動はよく知られているところだが、そういった騒動の渦中から一歩引いて、震災後の福島を描いた漫画が他にも30作品を超えることに注目し、漫画家たちの表現者としての模索を追ったものだ。

番組内で紹介、取材されていたのが、山本おさむ氏の『そばもん』。

そばもん 1 (ビッグコミックス)

そばもん 1 (ビッグコミックス)

作中の以下の台詞が紹介されていた。

“このそばが福島産というだけで敬遠されて、県外には全然売れないんです。”
“これが今年の喜多方市の秋そばのデータです。”
“すべての地域で「検出せず」という結果です。”
“他県産にもわずかながら放射性物質が含まれてる可能性はあるのに、なぜ福島産だけを避けるのか?”
“福島産を避ければ放射能を避けたような気持ちになれる。”
“だが、それでは実際には単に「放射能に対する恐怖」を頭の中だけで沈静化しただけの事。”
“福島産を、その恐怖のスケープゴートにすべきではないと思っている。”

山本氏は自らの経験から主観的な主張ではなく客観的なデータを示すことが大切だと考え、漫画を通して読者と一緒に考えたいのだと語っている。山本おさむ氏は元々、『遥かなる甲子園』や『わが指のオーケストラ』、『どんぐりの家』などでろう者などの障害児を描き、社会に問題提起した作品を数多く残している。漫画が社会と向き合い、表現者として問題提起してきた先駆者の一人でもある。

どんぐりの家 第一巻   Big comics special

どんぐりの家 第一巻   Big comics special

次に番組内で紹介されたのが竜田一人氏の『いちえふ』。

いちえふ 福島第一原子力発電所労働記(1) (モーニング KC)

いちえふ 福島第一原子力発電所労働記(1) (モーニング KC)

これは漫画家の竜田一人氏が、自らの福島第一原発作業員として働いた経験をもとに描いた作品で、発売後1ヶ月で20万部と話題を呼んでいる。実際に読んでみると、現場の一つ一つの規則や作業服などの様子から伝わる緊張感とともに、そのなかにある日常性や笑いまでが冷静なタッチで描かれており、作業員たちの様子が非常にイメージしやすい。

番組内で講談社の編集者が、「作業員という立場の作者が福島の全体像を見ることはできなくて、あくまで原発なり福島なりの“一側面”を見てきたということに過ぎない。自分の描いていることが正しいということを伝えるものではなくて、こういう体験をしてきたということを描いてもらう、そこに尽きる。」と語っていたが、そういった主観的な主張の押し付けを極力廃し、現実の体験を読者に提供しているに過ぎないといったスタンスが共感を得ている要因のように思える。

番組内では、最後に漫画家のしりあがり寿氏が解説としてスタジオ登場し、以下のように語った。

本当にこの震災をきっかけに、漫画の世界が開かれたなっていう感じがしますね。
どちらかと言うと、漫画というとエンターテインメントの世界で架空の物語を今まで描くことが多かったと思うんですけれども、今度のをきっかけに、社会に出てきて、実際にそこにあるものと取り組んでる、そんな感じがします。

これは私も同感で、マンガという表現方法の幅が拡がるなかで、近年になって非常に社会性を高め、震災がその大きな一つのきっかけになったように思う。そして、社会の様々な課題や事象と向き合い、描き、そして多くの人が考え、共感し、記憶する重要な社会の一要素になっていると感じる。そのうえで、しりあがり寿氏が語る以下のような姿勢が重要なのではないだろうか。

基本的なことを言えば、僕はどこまでも本当は自由であるべきだと思うんですね、表現するのは。そして批判するほうも自由だと。こういった、いや、そうじゃないだろう、だけどこうじゃない?え?本当はどうなの?
そうやって表現をして批判して、そのとう汰によって、何か新しい、正しいものが見つかっていくと。

自粛するのは簡単ですよね。
トラブルが嫌だって言って、みんなが思ってることと同じことを描いたりとか、危ないことには触れなくするっていうのは、簡単なことなんだけど、それはやっぱり、世の中全体がそうなったら、ちょっとまずい、そんな感じがしますよね。

漫画家の皆さんの模索と挑戦を今後も期待したい。

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