本山勝寛 4kizフォーキッズ代表 公式ブログ | Katsuhiro Motoyama's Official Blog

教育イノベーター本山勝寛の学びのススメ日誌。極貧家庭から独学・奨学金で東大、ハーバード大学院に通い、国際教育政策修士課程修了。日本財団で教育、国際支援、子ども支援事業に携わり、EdTechスタートアップを起業。 子供向けSNSフォーキッズを立ち上げる。『好奇心を伸ばす子育て』『最強の独学術』等著書多数。6児父4回育休。

ジョブズの3つの遺言

新年度が始まった。入学式や入社式があり、就職活動真っ盛りの時期でもある。新しい環境に慣れずに悩んだり、自分が本当にしたいことに出会えず悩む人も多いだろう。そんな折、今一度立ち返ってみたいメッセージがある。アップルを創設したステーブ・ジョブズが、スタンフォード大学の卒業式で行ったスピーチだ。ジョブズ亡き後、いまやこのスピーチは、キング牧師の"Ihave a dream"などに並ぶ伝説の域に達しているかもしれない。
私自身は、アメリカ留学を目指して英語の勉強と将来の展望について苦悶していた頃、YouTubeで視聴して、非常に胸に突き刺さった記憶がある。彼が最後に語った“Stay hungry, stay foolish”という言葉は私の座右の銘の一つとなり、その頃から8年間書き続けているブログのタイトル“Boys, be hungry!”にも使わせてもらっている。
ジョブズが自らまとめたそのスピーチの3つの要点は、点をつなぐこと、大切なものとそれを失うこと、そして死についてだ。
ジョブズは、未婚の大学院生だった産みの母親から養子に出された。産みの母親の願いは、彼を大学に行かせてほしいということだった。そして、実際にリード大学に通うことになった。しかし、半年後にジョブズは大学を辞めてしまう。裕福ではない両親が貯めたお金を高い授業料にすべて使ってしまい、それだけの価値を大学に見いだせなかったからだ。中退後、彼は必須授業に出ることをやめ、同じ大学の面白そうな授業にもぐりで出るようになった。
その一つにカリグラフィー(文字芸術)の授業があった。「セリフとサンセリフの書体について、文字の組み合わせによって文字間のスペースを変えることについて、素晴らしい印刷物は何が素晴らしいのか、を学んだ。それは美しく、歴史的で、科学では捉えられない芸術的繊細さで、私には魅力的だった。」と語る。
この授業は人生で実際に役立つ見込みのあるものではなかったが、ただ自分の興味と直感のままに学び、感動したものだった。しかし、その10年後、ジョブズが最初のマッキントッシュを設計しているとき、そのときの学びが鮮明に蘇り、それを取り入れることによって、「マッキントッシュは文字を美しく表示し印刷できる最初のコンピューターとなった」と語る。マッキントッシュだけでなく、iPhoneiPadなどアップルの製品はそのデザイン性と美しさへのこだわりがユーザーを魅了しているが、それはジョブズが大学を中退して直感の赴くままに学んだ体験から生まれたものなのかもしれない。
そのときは実際に役立つとは思えなかったことも、あとでその点が線につながることがある。英語では”connect the dots”という表現でよく使われる言葉だ。あたかも関係ないと思っていたことが思わぬところでつながり、視界が開け、はっとさせられることがよくある。そういうときこそ、創造的なものが生れる瞬間になる。それは敷かれたレールを走るだけでは生まれにくい。アンテナを高く広く拡げたり、自分自身が辿った「点」の意味を深く掘り下げてみたりする必要がある。だからこそ、なぜ学ぶのか、なぜそれを学ぶのか、なぜそれを学びたかったのかを考え続けることが重要なのだ。
ジョブズスタンフォードを卒業する学生たちに語りかける。
「繰り返す。先を見通して点をつなぐことはできない。振り返ってつなぐことしかできない。だから将来何らかの形で点がつながると信じなければならない。何かを信じなければならない。直感、運命、人生、カルマ、その他何でも。この手法が私を裏切ったことは一度もなく、私の人生に大きな違いをもたらした。」
ジョブズは次に「大切なものとそれを失うこと」について、自ら創設したアップルを30歳で首になった経験に触れる。起業家としての地位と「人生の中心だったもの」を失い、何カ月も茫然とする。しかし、彼の中で何かが徐々に湧き上がる。「自分がしてきたことが、まだたまらなく好きだった」という確信。そして、やり直す決意をなすことにより、これまでの成功者としての重圧が、再び新参者となったことによる軽快さに変わり、「人生で最も創造性豊かな時期」へと解き放たれた。「アップルを首になることは私に起こり得る最善のことだった」とも。その後、彼はトイストーリーなどの大ヒット作品を生み出したアニメーション制作会社Pixarなどを起業し、アップルの経営者として再び舞い戻ることになる。
「私は自分がしていることがたまらなく好きだ。それが私を動かし続けている唯一のものだと堅く信じている。たまらなく好きなことを見つけなければならない。そしてそれは仕事についても愛する人についても真実だ。仕事は人生の大きな部分を占めることになり、真に満足を得る唯一の方法は偉大な仕事だと信じることだ。そして偉大な仕事をする唯一の方法は自分がしていることをたまらなく好きになることだ。まだ見つけていないなら探し続けなさい。妥協は禁物だ。核心に触れることはすべてそうであるように、それを見つければ分かる。そして素晴らしい関係は常にそうであるように、それは年を経るにつけてどんどん良くなっていく。だから見つかるまで探し続けなさい。」
3番目は死について。
ジョブズは17歳のとき読んだ一節、「毎日を人生最後の日であるかのように生きていれば、いつか必ずその通りになる」という言葉が印象に残り、それ以来ずっと毎朝鏡を見て自問しているという。「今日が人生最後の日だとしたら、私は今日する予定のことをしたいと思うだろうか」と。
いつかは死ぬということを意識することで、他の人からの期待や、あらゆる種類のプライド、恥や失敗に対する恐れといったものを削ぎ落とし、自分にとってほんとうに重要なことだけを残すことができる。丸裸の自分、心のままに行動できる自分が残る。
「皆の時間は限られているから誰か他の人の人生を生きることで時間を無駄にしてはいけない。教条主義の罠にはまってはならない。教条主義とは他の人々の思考の結果に従って生きることだ。他の人の意見という雑音に自分自身の内なる声をかき消されないようにしよう。そして最も重要なことは、自分の心と直感に従う勇気を持つことだ。心と直感は本当になりたい自分をどういうわけか既に知っている。その他すべてのことは二の次だ。」と。
ジョブズの伝説のスピーチは、まさに天職をいかに見出すか、その羅針盤を示してくれている。自分の心と直感に従う勇気を持ち、好き好きでたまらないことを見つけること。なぜ学ぶのかを問うた結果、産みの親の何よりの願いであり、育ての親が苦労して行かせてくれた大学を辞め、心の赴くままに学んだ。そして好きで好きでたまらないものを見つけ、たとえ大きな挫折を味わってもまたやりたいと思えるもの、今日が人生最後の日だとしてもそれをやりたいと思えるものを見つけ、やり続けた。
天職を見出し、それを仕事にすることは決して容易なことではない。しかし、ジョブズの言葉は私たちを勇気づける。Stay hungry, stay foolishと。


(一応、日本語字幕付きの映像をリンクするが、ジョブズの生の言葉に耳を傾けていただきたい)

当ブログを応援して下さる方は1クリックお願いします→人気ブログランキング       ↑↑連載「学びの哲学」の書籍化に向け、皆さんの1クリックで応援をお願いします!