「第三子以降に千万円支援」が暴論ではない理由
産経新聞が6月21日付のコラム「日曜討論」で、"少子化対策 第3子に「1000万円」支援を"という提言を掲載した。論説委員の河合雅司氏のコラムで該当箇所を抜粋すると以下の通り。
第3子以降となると、さらに経済的な悩みが大きくなる。国立社会保障・人口問題研究所(社人研)の出生動向基本調査によれば、3人目以降の出産を見合わせた夫婦の7割が「お金がかかりすぎる」を理由に挙げた。
そこで小欄は、第3子以降に、子供1人あたり1000万円規模の大胆な支援をするよう提言したい。2010年の社人研の調査によれば、子供が3人以上いる夫婦は全体の21・6%に過ぎず、2002年調査の34・4%に比べ激減した。対象となる人数は少ないのだから、第3子以降を断念する大きな理由である大学進学までの教育費について、塾代も含めすべて無料とするぐらいしてもいい。それぐらいの発想が必要ということだ。
2005年度版「国民生活白書」によれば、子供1人にかかる費用は第2子は第1子の8割、第3子は6割程度で済むという。とはいえ、財源には限りがあるので、代わりに第1子、第2子に対する児童手当を廃止か縮小する。
一見、暴論のようにも思えるが、出生率が低位のまま推移し、このまま少子高齢化が加速すると、急激な人口減だけでなく、高齢化率が40%を越えて社会保障制度が破綻することが確実に予測されるなかで、少子化対策に効果の期待できる検討に値する案だと思われる。
たとえば、以前の記事で紹介したが、少子化を克服したフランスやスウェーデン、フィンランドなどの北欧諸国では、児童手当などの支援が第三子以降へ傾斜的に配分されている。出生率1.9のスウェーデンでは、第一子が月1050スウェーデンクローナSEK(約1万5000円)なのに対して、第二子が1150SEK(約16500円)、第三子が1404SEK(約2万円)、第四子が1910SEK(約2万7000円)、第五子が2100SEK(約3万円)が支給される。しかも、多子世帯手当は学生であれば20歳未満まで続く。第五子の手当支給総額は、月3万円が20年間続いて合計720万円だ。
さらに北欧諸国では学費が基本的には無料なので、大学授業料も実質上支援されていることになる。これらの「少子化対策先進国」の事例を考えると、上記提案の「第三子以降に1000万円の支援」という案が決して突拍子もないものではないことが分かる。
出生動向基本調査(2010)によると、日本では、理想の子ども数平均は2.42人なのに対して、予定子ども数平均は2.07人、さらに、実際に子どもを産んだ数である完結出生児数は1.96人だ。ギャップの最大の要因は経済的理由で、理想3人予定2人の71%。理想2人予定1人の44%が理由として挙げている。これは育児の心理的肉体的負担を理由に挙げているのが20%前後、夫の家事育児への協力が得られないが10%強なのに対して圧倒的に高い。これらの調査結果は、特に第三子以降への経済的支援が、政策的に有効に働き得ることを示唆している。
もう一点加えるとしたら、月々の支給を長期間継続することも家計には有難い支援だが、出産時にまとめて支給する、あるいは支給をコミットすることで、少子化対策としてはより効果が期待できる。以前に、第1子5万円、第2子10万円、第3子100万円、第4子300万円、第5子500万円の出産祝い金を社員に支給しているソフトバンクグループの事例を紹介したが、社員の出産促進支援に着実に効果を表しているもようだ。
たとえば、第三子の児童手当を2万円、第四子を2.5万円、第五子を3万円とスウェーデン並みに増額し、第三子以降の出産祝い金を100万円支給するなどが考えられよう。 昨年の出生数は、第1子は47万4191人、第2子が36万4763人、第3子以降は16万4578人だった。第三子以降に出産祝い金100万円を支給すると年間約1600億円だ。第三子に児童手当を2万円と現状より5千円増額すると、これも約1500億円程の増額規模になると推測される。待機児童解消対策として、小規模保育や長時間保育、病児保育、認可外保育所への支援に年間6千億円強が計上されていることを鑑みると、決して現実離れした数字ではない。
10%に増額が決定されている消費税や、タバコ税の大幅増税などによっても財源確保は可能だ。少子化対策は既に遅きに逸しているところもある。だからこそ、大胆で効果的な策が求められる。千万円というと途方もないバラマキのようにも映るが、多子世帯への傾斜的支援は少子化を克服した国々の共通する施策であり、真剣に検討すべき政策といえよう。
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