世界を変えてきた知のライバル関係〜Be ambitious, Be foolish!
前の記事で、知のライバルが学びを加速させること、そしてそれが「なぜ学ぶのか」という学びの哲学を解くヒントになるということを書いたが、歴史上における知のライバル関係ものぞいてみたい。
まずは何といっても幕末の志士だ。私自身が高校時代に学びに目覚めたのも彼らの姿がきっかけだったわけだが、彼ら自身、当時の学びの勢いはハンパじゃない。藩という枠組みの中でしか物事を考えられなかった時代、黒船に象徴される西欧列強の圧倒的な力に衝撃を受け、その学問・思想と日本の統治システムについて急速に消化吸収し、日本が生き残るための道を考え出す。そして、それは一人で考え出されたものではない。
倒幕の立役者、長州の桂小五郎(後の木戸孝允)と高杉晋作は、吉田松陰が教えた松下村塾においてまさに盟友関係にあった。実直で秀才肌の桂に対して、自由奔放で奇抜な発想をもった高杉はまさに名コンビだ。私は、知のライバルである画伯との関係をマンガ『サンクチュアリ』の主人公二人に投影したように、『世に棲む日々』を読みながら桂と高杉にもそうやって感情移入したものだ。
もう一方の雄、薩摩の西郷隆盛と大久保利通も幼馴染みで同じ藩校で学んだ仲だ。ライバル兼同志がいてこそ、大久保の知が加速し、西郷の器が輝いた。さらに、両藩がライバル関係あり、坂本龍馬などの媒介者がいたことも、彼らの学びを爆発させた要因となっただろう。
おもしろき こともなき世を おもしろく
倒幕を前に29歳で病死した高杉の辞世の句に、学びの哲学に関するエッセンスがつまっている。彼らの人生はまさにおもしろい。そして、それを学ぶことも実におもしろいのだ。
もう一つ、私が大学時代に好きになった知のライバル関係を紹介したい。内村鑑三と新渡戸稲造だ。新渡戸稲造は最近まで5000円札の顔であったし、世界的ベストセラー『武士道』の著者として日本人なら誰もが名前は聞いたことがあるだろう。日本人で初めて国際連盟(国際連合の前進)の事務次長にもなった人物で、日本史上随一の国際的日本人と言えよう。その新渡戸と札幌農学校時代の同級生で、生涯の知のライバルだったのが内村だ。札幌農学校(後の北海道大学)は「Boys, be ambitious!(少年よ、大志を抱け)」の言葉で有名なクラーク博士が創設初年度を指導したことで有名だが、それは、日本を代表するこの二人がその二期生として輩出されたからにほかならない。内村は近代日本を代表する宗教家で、新渡戸と同様に英文のベストセラー『代表的日本人』や『余は如何にして基督信徒となりし乎』を著し、教育者、評論家としても活躍した。「I for Japan, Japan for the World, and The World for Christ, And All for God.」という言葉を遺し、私が最も好きな人物の一人だ。
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他にも例を挙げると、共産主義という世界を変える思想を創り出したマルクスとエンゲルス、孔子の弟子でそれぞれ性善説と性悪説を唱えた孟子と荀子、世界を制する西洋思想の源流となる師弟関係ソクラテス、プラトン、アリストテレスも、知のライバル関係によってその知が大いに発展したといってよいだろう。学びにおける盟友関係が成立するとき、世界をひっくり返してしまうほどの力が生まれることがある。そして、実におもしろい。
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