村上春樹の新作『1Q84』がだいぶ話題になっていた。私は、村上春樹の小説自体には正直まださほどの興味をもっていない。ただハーバードに留学していた頃から、HARUKI人気がアメリカでもかなりのもので、世界各国で読まれていることを知り、日本のソフトパワーを考える材料の一つとして関心を抱くようになった。
国際交流基金が企画した世界中の村上春樹翻訳者を日本に集めるという一風変わったシンポジウムの内容をまとめた本著は、そういう観点からは若干のヒントを与えてくれたように思う。欧米各国や韓国、中国、香港、台湾、それにロシア、ブラジルなどで村上春樹がどう読まれているか、そこに共通点、相違点はあるかなどが各国のケースから延々と語られている。
私が好きな三島由紀夫や川端康成など、これまで世界で読まれていた日本文学のように、日本の匂いを一見感じさせない村上作品の海外での成功は、グローバリゼーションが進む現代世界と日本のソフトパワーとの関係に示唆を与える。
私の勤める日本財団でも、海外での日本理解を促進するためにこういったことを踏まえた事業を展開しようとしている。国際交流の事業、企画という観点からも、交流基金は面白いところに着眼したと思う。