まなブロ by 本山勝寛 教育イノベーター・日本財団子どもの貧困対策チームリーダー

教育イノベーター本山勝寛の学びのススメ日誌。極貧家庭から独学・奨学金で東大、ハーバード大学院に通い、国際教育政策修士課程修了。日本財団子どもの貧困対策チームリーダー。『今こそ「奨学金」の本当の話をしよう。』 『最強の独学術』等著書多数。

卒業おめでとう!東大総長のスピーチ

各地で卒業式が行われている。卒業生の皆さん、おめでとうございます。
東京大学でも26日に卒業式が行われ、その様子が報道されていた。

報道によると、濱田純一総長は「グローバル化が進むなか、タフさというものが重要になっている。目先のことに一喜一憂したり、周囲に振り回されたりするのではなく、自分の頭で考え、自分の判断を信じて、大きな視野を持ちながら人生を泰然と送ってほしい」と述べたようだ。全文がまだ東大の公式サイトにアップされていないので評価のしようがないが、東大総長の卒業式や入学式のスピーチは、ぜひとも動画を公式サイトとYouTubeにアップしてほしい。大学とは何か、学びとは何か、真理と知性とは何か、その担い手、探究者たる者の使命と責任とは何か、それらと社会とのつながりとは何かを、東大生のみならず日本国民全体が考える良い機会であり、その機会に語る東大総長の言葉はそれだけ重い言葉だからだ。

歴代東大総長のなかでも傑出した人物である南原繁総長による、敗戦後最初の東大卒業式におけるスピーチをみてみたい。ジャーナリストの立花隆氏によると、南原繁の言葉は新聞紙上で大きく報道され、敗戦を前に茫然自失としていた日本人に大きな希望と使命感を与えた。ナポレオン軍との敗戦後に、ドイツ国民に民族の誇りをかけて国の再興を呼びかけたフィヒテの『ドイツ国民に告ぐ』と、同じような効果を日本人にもたらしたと高く評している。(この辺の論評は、立花隆著『天皇と東大』に詳しい。)

天皇と東大〈4〉大日本帝国の死と再生 (文春文庫)

天皇と東大〈4〉大日本帝国の死と再生 (文春文庫)

では、敗戦後の日本人を奮い立たせた、南原の言葉を拾ってみたい。

 「およそ大学を卒業した者は、いずれも「学士」―広い意味の「学者」である。たとえ学問をもって生涯の仕事としない者でも、大学に学んだほどの者は、少なくとも学問的真理に対する尊敬と思慕を、その日常の生活のうちから見失ってはならず、精神の教養はいかなる多忙の間にもこれを怠ってはならない。現在日本に不足しているものは、必ずしも食糧と住宅ではなく実に高い「知性」と「道義」であると思う。今次敗戦の因ってくるところも、深く考えれば、この二者の欠陥にあったといい得るであろう。
 諸君はこれより活社会に出るときに、諸君が現に知り、また想像する以上に、悪しき習慣、惰性、虚偽、情実等の多くの背理、不徳、不法さえ充満する世界を見出すだろう。だが、諸君はそのなかに溺れることなく、それぞれの持場において、出来得る限りこれが救済と改善に考案努力すると同時に、いつまでも純真であり、他人に信頼せられ、自ら省みて良心に恥じない行動を責任をもって遂行することを心がけられたい。たといその間において、諸君の期待が裏切られるようなことがあろうとも、あえて失望することなく、各自が与えられた可能の範囲において、諸君のまわりにより善き世界の建設の理想に向かって努力しなければならぬ。理想はひとりの青年の夢想ではなく、また単なる抽象的観念でもなく、われわれの生涯を貫いて、いかなる日常の行動にも必ずや現実の力となって働くものである。
 我が国有史以来の破局に臨み、朝野を挙げて一大革新の要求せられる時代において、諸君はまさにモラル(道義)とインテリジェンス(知性)の代表者として、国家社会のあらゆる部面の隅々にまで、これを浸透せしめる使命を担う者であることを銘記されんことを望む。
 真理は究極において自由なる個性の内面的思索によって達せられるものであり、人間が自らの精神の深みから自己を築きゆくことのほかに、われわれの運命を決すべきものはないのである。そうした精神の自由な個性の力こそが、あらゆる組織を生かし、真に強くし、ついに社会国家を動かし、進歩せしめる発条となるであろう。
 諸君は真理に対する確信を失うことなく、どこまでも自らの精神と魂をもった人間となれ!かような人間と人間性理想こそが祖国を興すものとなり、国を高めて真に世界的人類的とし、あまねく人類文化と世界平和に貢献せしめるに至るであろう。…
 諸君は相携えて出でて社会に、大衆の間に、各自の仕事を通じて、かかる同志を求めよ。この自覚に立つ者は、皆われらの仲間であり、ともに祖国再建の戦士である。…
 諸君は今日ここに別れを告げるわれら師友と、諸君が長い学窓生活の最後を学んだこと学園のことを、今後の生活の幾曲折において、想い起こされんことを望む。われわれはまた、諸君の前途を祝福しつつ、この大学を護り、祖国の再建と新日本文化の発展にわれらの努力を献げるであろう。かくて諸君はいずこにあっても、われわれとともに同じくこの母校を中心として、見えざる真理の紐帯によって結ばれた一つの結合のうちに常にあるであろう。
 さらば卒業生諸君!いつまでも真理に対する感受性をもち、且つ気高く善良であれ!そして常に明朗にして健康であれ!」

南原繁の講演集は『文化と国家』(東京大学出版)に収録されている。

文化と国家

文化と国家

表現は違うが、濱田総長が昨日語った「目先のことに一喜一憂したり、周囲に振り回されたりするのではなく、自分の頭で考え、自分の判断を信じて、大きな視野を持ちながら人生を泰然と送ってほしい」というメッセージと、70年前の南原の言葉に、本質的に大きな違いはないように思う。
卒業生の皆さん。今は期待と不安でいっぱいでしょう。社会人になれば大学時代のことを忘れてしまうほど、多忙な毎日が待っているでしょう。今一度、4年間の学びを振り返り、そしてこれから担うであろう使命と責任に対する自らの想いを省みていただきたい。
そして、大学を卒業した者である「学士」の皆さんも、桜が咲いて散るこの季節、立ち止まって振り返り、自らの原点を訪ねてみるのもよいだろう。

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