安倍首相が日本の首相として36年ぶりにミャンマーを訪問し、テイン・セイン大統領と会談した。このこと自体は大変好ましいことであり、近年のミャンマーブームの前からミャンマー支援に関わってきた者として感慨深いところがある。しかし、一点懸念せざるを得ない点もある。各紙で報道されているように、今回の会談では「対日債務約2千億円の返済免除や、1千億円規模の政府開発援助(ODA)を表明」したとのこと。(MSN産経)
実は、ミャンマーへの円借款の債務免除は今回の2千億円だけでなく、今年1月に約3千億円を実行したばかりなのだ(外務省HP参照)。つまり今回の2千億と合わせて合計5千億円もの債権が放棄されたということになる。そもそもODAの債権放棄は今回始まった話ではなく、毎年当たり前かのように繰り返されている。以下がその数字だ。(外務省HP参照)
- 2003年度 1088億円
- 2004年度 1699億円
- 2005年度 9683億円
- 2006年度 1523億円
- 2007年度 218億円
- 2008年度 2860億円
- 2009年度 76億円
- 2010年度 164億円
- 2011年度 996億円
この9年間で1兆8千億円、今年のミャンマー分を入れれば10年間で実に2兆3千億円の債権が放棄されたことになる。円借款の財源は言うまでもなく税金だ。この借款が何のために使われ、どのような状態になっているのか、債権放棄が如何なる理由でなされ、どのような戦略的効果が期待できるのか、失った債権の責任は誰がとるのか、政府は十分な説明責任を果たすべきであろう。不思議なのは、マスコミはどこも当然かのように報道し、誰も批判していないことだ。
先日は奨学金滞納問題について書いたが、こちらは放棄ではなく滞納で、全体の6%と比率は減少傾向にあるにもかかわらず、それを隠して、「過去最大の876億円にも急増している大問題だ」と書きたてる。一方で、2兆3千億円もの税金の放棄については何も論じない。
今回のミャンマーについては、民主化の流れを後押しするという戦略的目的や、「アジア最期のフロンティア」と呼ばれる同国への日本企業の進出を後押しする意味合いは確かにある。しかし、既に3千億円の債務免除がなされたばかりで、それとは別に借款500億円、無償援助500億円、計1千億円の新たな支援も表明される。今回の会談ではそれで十分であり、残りの2千億円の債権放棄を今回する必要はあったのだろうか。そのカードは後々に残しておくか、民主化と経済成長を続けてもらう証としてコツコツと返済してもらう方がよいように思う。ミャンマーの経済成長率は現在5.5%、各国からの援助と投資が急速に入っている状況であれば、難しい要求ではない。
さらに言えば、ミャンマーの主要な貿易相手国は輸出入ともに中国だ。中国を牽制するために行った日本の債務免除が、結果的にミャンマーに深く入り込んでいる中国を利することにならないとも言えない。この傾向は他の債務免除国も同様で、たとえば2011年度に900億円の債務免除したコンゴ民主共和国も同じだ。
ODAといえども、借款として融資しなたらばしっかりと返済してもらうべきだ。それができないなら国民に説明責任を果たすべきであるし、返済が見込めないような新たな借款は行うべきでない。マスコミも偏向報道ばかりしていないで、見るべき点を見てしっかりと仕事をしてほしい。