「年越し派遣村」など社会活動家として著名な湯浅誠氏。現在、法政大学教授として教鞭をとりながら、こども食堂ネットワークの代表も務められている。子どもの貧困問題にも取り組んでおり、『「なんとかする」子どもの貧困』を著している。
特に、子ども食堂の取り組みの背景や意義、様々な活動の類型整理や具体的事例などがまとまっている。子ども食堂はここ数年で草の根的に拡がり、全国で2200以上に拡大しており、さらに数が伸びているそうだ。
子ども食堂というと貧困家庭の子どもというイメージだけが強いが、実はその取り組みは様々だ。必ずしも貧困家庭に限ったものでなかったり、子どもだけでなく大人や高齢者なども集まって交流する、「孤食」を防ぐための地域のコミュニティの役割を担う子ども食堂が多い。湯浅氏はそれらを「共生食堂」=「子ども食堂(共生型)」としている。
一方で、貧困家庭の子どもを対象に、ケアに重点を置く子ども食堂もあり、それらを「ケア付食堂」=「子ども食堂(個別サポート型)」と整理している。同じ子ども食堂でも、趣旨や対象が少しずつ異なるため若干の混乱が生じているが、それぞれ社会にとって必要な役割を果たしている。
『「なんとかする」子ども貧困』より、子ども食堂の類型図
著書のなかで、子ども食堂など「子どもの居場所」が提供するものとして以下の四点を挙げている。
1)栄養や知識
2)体験(交流)
3)時間
4)トラブル対応(生活支援)
どれも重要だが、にもかかわらず十分に意識化、言語化されておらず、かつ居場所の核をなしているのは「時間」だと指摘している。この指摘は、私としても最も腑に落ちた箇所だ。著書で紹介している「彩の国子ども・若者支援ネットワーク」代表理事白鳥勲さんの以下の言葉が印象深い。
一緒に過ごす時間の中で、子どもたちの中に何かが溜まっていく。それはコップに水が溜まっていくようなものだ。そしてあるとき、溢れる。そのとき、子どもたちは「何かやってみたい」と言い出してみたり、将来について心配し始めたり、急に勉強し始めたりする。いつ溢れるか、それは私たちにはわからないし、本人にもわからない。でも、人の成長にはそういう時間が必要だということはわかる。
子どもと十分に時間を過ごすこと。話を聞いたり、一緒に遊んだり、ご飯を食べたり。子育てをしていると、そんな時間の蓄積が、やがて子どもの心を満足させ、自立を促すことを実感する。でも、何らかの理由で、そんな時間を十分に持てていない子どもはどうか。何らかのかたちで、「時間」を共有する場が必要なのではないか。
子どもの貧困は、お金の貧困だけを見ていては解決できない。子どもたちの安心できる居場所をつくり、じっくりと「時間」をかける必要がある。そうすることで、子どもたち自身が本当の意味で「自立する力」をつけていくことができる。手間暇と時間はかかるが、何よりも子どもは私たち社会の宝なのだから。
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