2020年、あと3年半後には東京オリンピック・パラリンピックが開催される。競技会場の準備ももちろん重要だが、国際オリンピック委員会(IOC)はWHOと共同で「たばこのないオリンピック」を掲げており、過去の開催地ではいずれも罰則を伴う受動喫煙防止策を講じられてきた。一方で、2020の開催地である東京では、かねてから必要性が指摘されている受動喫煙防止条例の制定が遅々として進んでいない。ちなみに、受動喫煙による年間死者数は日本国内で1.5万人、世界で60万人だ。これは、交通事故の約4100人、殺人事件の被害者数約340人よりも圧倒的に多い。
神奈川県では松沢成文前知事のリーダーシップにより、いちはやく受動喫煙防止条例が2009年に公布、2010年に施行されたが、肝心の五輪開催地である東京からは一向にやる気が感じられない。レストランなどの飲食店にいっても、東京だと店内で喫煙しているケースが多く、子どの多いファミリーレストランでさえ、喫煙スペースからタバコの煙が漏れて店内に充満し、子どもたちに受動喫煙のリスクを感じさせられてしまう。
東京が動かないなか、ようやく国が動き出し、2016年10月には厚生労働省が「受動喫煙防止対策たたき台」を発表した。この案は、受動喫煙対策を義務化し、現行の健康増進法にあるような「努力義務」ではなく、罰則の適用を法律で定めるとした点において、グローバルスタンダードに合致する。官公庁、医療機関、学校は敷地内ないし建物内禁煙とする一方で、飲食店・宿泊施設などは原則建物内禁煙だが「喫煙室」設置可とされている。
これに対して、日本禁煙学会などは「飲食サービス施設を含むすべての屋内空間を速やかに完全禁煙にするべきであり、喫煙室の設置を可とすべきでない」と問題点を指摘している。その理由は、1)喫煙室の出入りに際して必ずタバコ煙が漏れる、2)サービスを行う従業員や、喫煙室の掃除、機器のメンテナンスを行う労働者が濃厚な受動喫煙にさらされる、3)喫煙室の設置と空調機能維持に多額の費用がかかるため、「煙の漏れる、形だけの喫煙室」つまり「欠陥喫煙室」が多数作られる結果となり受動喫煙は防止できない、などを挙げている。
子を持つ親として、私もこの意見に賛成だ。厚労省の「たたき台」に対して、これから飲食店やたばこ業界団体の圧力が増すと思われるが、何よりも子どもたちや受動喫煙による「被害者」を第一に考えるルールをつくるべきだ。交通事故死の3倍以上にもなる被害者がいることを看過すべきではない。国は多様な意見を聴衆し、票につながる業界団体の声に耳を傾ける力学が働くと思われるが、今であれば小池都知事が高い支持率をバックに、五輪開催地としてモデル的な受動喫煙防止条例を東京都で早急に制定していただきたい。
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