本山勝寛:まなブロ

独学で東大、ハーバード大学院に合格し、国際教育政策修士課程修了。アジア最大級の国際NGOである日本財団で、教育や福祉、NPO支援に携わり世界中を駆け回っています。日本と世界に「学びの革命」を起こすべく、学びのススメを綴ります。 『最強の独学術』https://www.amazon.co.jp/dp/447979610X/

イチローは長期の集中状態「フロー」に入っている

イチロー選手が遂に、メジャーリーグ3000本安打を達成した。その偉業に心からお祝いしたい。先日の達成前にも「イチローの失敗から学ぶ力」について記事を書いて、カウントダウンを毎日楽しみにしていたが、想像以上に長くかかった3000本達成には非常に感銘を受けた。

イチロー選手のインタビューはすべて味わい深いが、特に印象的だったのが次の言葉だ。全文掲載をしているFull-Countから引用する。

――3000安打を達成した率直な気持ちから。
「この2週間強、ずいぶん犬みたいに年取ったんじゃないかと思うんですけど、あんなに達成した瞬間にチームメートたちが喜んでくれて、ファンの人たちが喜んでくれた。僕にとって3000という数字よりも僕が何かをすることで僕以外の人たちが喜んくれることが、今の僕にとって何より大事なことだということを再認識した瞬間でした」

チームメートやファンに感謝の言葉を述べるのは、アスリートにとってごく普通のことだが、普段独自の表現で会見を行うイチロー選手が何よりも先にこういったことを口にすることは意外にも思えた。しかし、その言葉が、3000本達成直後の三塁上でのチームメートとの喜びようや、その後のベンチで、ひそかにサングラスの下から涙を流した姿をみると、それが本心から出てきたものであることが感じられる。「僕が何かをすることで僕以外の人たちが喜んでくれることが、今の僕にとって何より大事なこと」。イチロー選手は、自分自身の数字という以上に、自身の闘いがより大きな何かの一部のように感じられたのではないだろうか。

この会見を聞いて、私はチクセントミハイ教授の「フロー」の概念を思い出した。米国の心理学やビジネス界で注目されるこの概念は、新著『一生伸び続ける人の学び方』でも触れたが紹介したい。

一生伸び続ける人の学び方

一生伸び続ける人の学び方

シカゴ大学やクレアモント大学院大学で心理学教授を務めたミハイ・チクセントミハイ氏は、何かに没頭し極度の集中状態に入っていることに対して、「フロー」(または「ゾーン」と呼ぶ)という概念を提唱した。2008年に行ったTEDのスピーチ(300万回以上視聴)で、あらゆる職業の人たちに8000回以上のインタビューを行った結果、文化や受けてきた教育に関わらず、人がフローに入るときの条件として、以下の7つの条件が挙げられると説明している。

1)自分が何をしたいのか分かっていて、
2)ただちにフィードバックが得られること、
3)何をする必要があるか分かっていて、
4)それが難しくても可能なこと、
5)時間の感覚が消失すること、
6)自分自身のことを忘れてしまうこと、
7)自分はもっと大きな何かの一部であると感じること

1)〜6)は、よく目標達成や集中力を高める観点からよく指摘されるポイントだ。イチロー選手がこれまでことごとく記録を塗り替えてきた力の源泉もそこにあるように思う。今回のイチロー選手の姿から感じたのは、最後のポイント、「7.自分はもっと大きな何かの一部であると感じること」だ。

チクセントミハイ教授はTEDのスピーチで、ソニー創始者である井深大の言葉を例に挙げ、次のように語っている。「彼はソニーを始めたばかりでお金もなく、製品もなく、何もない状態でしたが、アイディアがありました。彼のアイディアというのは、エンジニアが技術革新の喜びを感じられて、社会に対する使命を意識して心ゆくまで仕事に打ち込める仕事場を作り上げるというものでした。『フロー』が職場でどう実現されるのか、これ以上よい例を思いつきません。」この「社会に対する使命を意識して」という部分が、「大きな何かの一部であると感じること」につながるのだろう。つまり、技術革新によって社会がより便利になり、人々の暮らしが向上し、発展することの意味を感じて、自分の取り組んでいることがその大きな発展や進歩の一部であることを感じられることが、「フロー」につながるわけだ。

イチロー選手の場合、「僕が何かをすることで僕以外の人たちが喜んでくれることが、今の僕にとって何より大事なこと」と思えることが、自分自身の記録という数字以上に、もっと大きな何かの一部であると感じられ、それが力の源泉となり、極度の集中を生む長期フロー状態へと導いている気がするのだ。

数日間あるいは数ヶ月間、極度の集中状態「フロー」に入ることは、比較的多くの人が達成している。しかし、挫折やスランプをこえて、20年以上もの長期間「フロー」に入る超一流の人は、自分自身の歩みが自分を超えた大きな何かの一部であることを感じ、その大きな何かに背中を押されるような感覚の境地に入るのかもしれない。

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