本山勝寛:まなブロ

独学で東大、ハーバード大学院に合格し、国際教育政策修士課程修了。アジア最大級の国際NGOである日本財団で、教育や福祉、NPO支援に携わり世界中を駆け回っています。日本と世界に「学びの革命」を起こすべく、学びのススメを綴ります。 『最強の独学術』https://www.amazon.co.jp/dp/447979610X/

「最もアクセシブル」な国連防災世界会議で仙台枠組採択


障害専門月刊誌『ノーマライゼーション』に掲載された寄稿論文を転載

第3回国連防災世界会議が3月14日から18日まで宮城県仙台市で開催された。10年に1度の国連会議で、187カ国の政府代表や国連機関、NGOの代表らが6,500人以上参加したほか、約400のサイドイベントと展示企画を含めると延べ16万人以上が参加した大きなイベントとなった。本会議では、防災に関する国際的な新たな枠組「仙台防災枠組2015-2030」が採択され、今後の指針が示された。この国連防災世界会議で、これまで見落とされてきたテーマ、「障害者と防災」について今までになく大きな注目が集まった。

第1回の国連防災世界会議は1994年に横浜で、第2回は2005年に神戸で開催され、「兵庫行動枠組2005-2015」が採択されていた。今回は、2011年3月11日に起きた東日本大震災の教訓を世界に共有しようと、日本政府がホスト国となり、被災地である仙台市での開催となった。

東日本大震災の教訓の一つとして、障害のある方に多くの犠牲者が出てしまったことが挙げられる。同震災で犠牲となった障害者は1600人以上で、その死亡率は住民全体の約2倍にのぼった。肢体不自由のため逃げ遅れた人。避難警報が聞こえなかった人。目が見えず高台に辿り着けなかった人。人工呼吸器の電源を喪失し息を引き取った人。普段からの備えと周囲の支えがあれば、助かっていたかもしれない命だ。避難所生活でも、周囲の無理解ゆえに避難所を去り、がれきに埋もれた自宅や車の中での生活を余儀なくされた人も多い。

こういった具体的なデータや事例が浮き彫りになったことから、国際社会においても「障害者と防災」についての注目が集まるようになった。一方で、「兵庫行動枠組」には、障害者に関する記述が、「潜在的リスク要素軽減」の一項目として、「貧困層、高齢者、障害者など災害による被害を受けた弱者を支援するセーフティネット・メカニズムを強化する」と一箇所あるのみで、非常に限定的なものであった。各国の具体的な対策も十分であったとは言えない。国連国際防災戦略事務局(UNISDR)によると、2011年以前は、防災に関する国際会議で障害者がテーマに扱われたことや、障害のある人が会議に参加したことはほとんどなかったという。

こういった状況を踏まえ、日本財団や日本障害フォーラム(JDF)など国内外の障害者団体は、防災の取り組みに障害者の視点を取り入れることの重要性を国内外で訴えてきた。2012年から東京を皮切りに、インチョン、ジュネーブ、ニューヨーク、陸前高田、仙台、バンコクと世界各国で障害者と防災をテーマに国際会議が開催され、国連機関や各国政府、NGOらに働きかけが行われた。

これらの実績と議論の土台のうえ、2014年6月にジュネーブ国連本部で開催された国連防災世界会議第1回準備会合に障害者グループも一部参加をしたが、十分に発言の機会が与えられたとは言えなかった。事務局であるUNISDRに理解があったとしても、国連会議である以上、国連市民社会として定める9つの「メジャー・グループ」の枠組みに沿って、発言機会が提供されることになっていたからだ。このメジャー・グループは1)女性、2)子供と若者、3)農家、4)先住民、5)NGO、6)労働組合、7)地方自治体、8)科学技術、9)企業・産業から構成され、1992年リオの国連環境開発会議で採択された「アジェンダ21」によって定められたものだ。ここに障害者は含まれていないため、障害者が国連会議で発言を試みようとしても、制度の壁が立ちはだかったわけだ。

しかし、このままでは防災の議論と計画の過程から障害者も参加し貢献する「障害者インクルーシブな防災」を実現することはできない。世界の障害者団体と支援団体は9月1日、UNISDRのマルガレータ・ワルストロム国連事務総長特別代表(防災担当)や第3回国連防災世界会議準備会合共同議長、日本政府の菅沼健一国連防災世界会議担当大使宛に、障害者グループを国連防災世界会議のパートナーとして位置づけるよう共同要望書を提出した。また、国連障害者権利条約障害者権利委員会も続いて10月に同様の声明を発出した。

これらの働きかけの結果、障害者グループが女性や子どもなどの9つのメジャー・グループに準ずる「その他の重要なステークホルダー」として位置づけられ、国際障害同盟(International Disability Alliance)、日本財団、障害者インクルーシブ防災ネットワーク(DiDRRN)、国際リハビリテーション協会(Rehabilitation International)の4団体が幹事団体として各国の障害者の声をとりまとめることになった。

さらに日本財団は、国連防災世界会議の本会議や準備過程に多くの障害者が参加できるよう、会議全体のアクセシビリティを確保するプロジェクトの実施を国連に提案し、その費用を助成することを10月に決定した。これにより、会場や宿泊施設、交通機関バリアフリーの徹底と調整、手話通訳(国際手話、日本手話)や要約筆記(英語、日本語)など情報保障の提供、公式文書のアクセシブル形式による発行、障害のあるスピーカーに対する旅費支援などが国連防災世界会議としては初めて実施されることになった。また、開催国である日本政府の働きかけもあり、国連防災世界会議の本会議において、障害者と防災をテーマにした公式ワーキングセッションが初めて設けられることも決定した。

こういった準備過程を経て、3月14日から国連防災世界会議は実施された。上述の通り、本会議とサイドイベントに多数の参加者が集まるビッグイベントとなったが、そのなかで、障害者の参加は本会議だけでも200名にのぼり、参加者がほぼいなかった10年前と比べると大きな進展があった。サイドイベントも3月15日に国連経済社会局が、16日に陸前高田市とJDFが、17日には仙台市日本財団が、障害者と防災に関するサイドイベントを連日開催し、いずれの会場も満席となった。本会議やサイドイベントで手話通訳や要約筆記が提供され、リフトバスで参加者が移動している様子がテレビや新聞各紙で大きく取り上げられ、毎日新聞(3月16日朝刊)は、“国連防災世界会議:「最も進んだバリアフリー」実践”との見出しで報じた。


本会議では、障害者に特化したセッション以外にも、3月15日の国際協力をテーマにした閣僚級セッションにマリアンヌ・ダイアモンド国際障害同盟会長が、3月17日インクルーシブ防災のセッションにはカルロス・カイザー・マンシージャOGN Inclusiva事務局長がパネリストとして発言した。また、3月16日の全員出席の政府間会合でも、タイのモンティエン・ブンタン上院議員(障害者権利委員会委員)が「この会議は次の国際的な防災枠組を完全にインクルーシブなものとする歴史的な機会である」とし、以下の3つのポイントを強調した。1つ目は、障害者の経験や特別なニーズに対する深い理解の必要性。2つ目は、全ての人にアクセス可能なユニーバーサル・デザインを、ハード面のみならず政策やプログラムなどソフト面においても反映させること。3つ目は、新しい防災枠組の実践課程においても障害者が積極的に関われるよう、より制度化された明確な仕組みが必要であり、その説明責任を果たすために障害有無別によるデータや、各指標において障害者の視点を取り入れることの重要性が訴えられた。

3月17日に開かれた「全ての人のための包括的(インクルーシブな)防災における障害者の積極的参加」をテーマにしたワーキングセッションでは、世界各国の障害者を含む約400名の出席者が参加した。笹川陽平日本財団会長は開会挨拶で、「あらゆる障害者の参加を可能にする新たな行動枠組が採択されることで、災害発生時の人的被害の減少につながるだけでなく、防災計画や訓練、災害復興などあらゆる段階において障害者が参加し貢献する道が拓かれる」と述べた。続いて、北海道浦河町精神障害者のコミュニティ「べてるの家」のメンバーが、DAISYを活用した避難マニュアル作成や普段の避難訓練の積み重ねによって、東日本大震災でも落ち着いて避難ができたことを寸劇を通して発表した。パネルディスカッションでは、ケニアのポール・ンジョロゲ上院議員、米国のマーシー・ロス連邦緊急事態管理庁障害者担当部長、ソニア・マルガリータ世界盲ろう者連盟代表、セタレキ・マカナワイ大洋州障害者フォーラム代表らが登壇。障害者は単なる社会的弱者ではなく、防災に主体的に貢献できる主要な担い手であること、障害の有無にかかわらず防災情報や避難警報、避難生活における各種情報にアクセスできるよう情報技術を積極的に活用することなどが提案された。

最終日18日には、「仙台防災枠組」が国連加盟国によって採択された。 目標として7つの指標が定められ、1)2020〜30年の間の災害による死亡者と被災者の割合を2005~2015年の平均値より減らすこと、2)2030年までに災害による死亡率と被災者の割合を大幅削減すること、3)国内総生産GDP)比で災害による経済損失を減らすこと、4)医療や教育施設など重要インフラの損害を2030年までに減らすこと、5)防災戦略を持つ国の数を2020年までに増やすこと、6)途上国に対する防災分野の国際協力を拡大すること、7)早期警戒システムや情報を利用できる人を2030年までに増やすことが掲げられた。また、「人間中心の予防的アプローチ」を謳い、多様なステークホルダーの役割の重要性が強調されたことも大きな特徴だといえる。そのなかで、特に今回新たに加わった要素が、障害者の防災の担い手としての役割だ。

「男女平等と全ての人にとってアクセス可能な災害対応、復旧、復興、リハビリテーションをリードし促進するために、女性と障害者をエンパワーすることが一つの鍵となる」と明記され、障害者が防災の重要なステークホルダーの一員として挙げられた。「序文」、「指針となる原則」(全ての人の包括性、およびデータ)、「優先行動」、「ステークホルダーの役割」の合計5箇所において障害に関する記述があり、前回の兵庫行動枠組から大きな進展があった。議論のプロセスと成果文書において、障害当事者の声が反映された先進的な枠組であり、今後の国連や国際社会のモデルになり得るものだと言えよう。

ただ、より重要なのは、この枠組をツールとして、障害のある人もない人も参加する具体的な防災対策を進め、次の災害が起きたときに、一人でも多くの命を救うことだ。各国政府と市民社会によって、採択された仙台枠組の内容が具体的な行動として実践されることを期待したい。また、今後、各国で策定される防災計画や、今年9月に採択される2015年以降の開発アジェンダ「持続可能な開発目標」(SDGs)などにも、国連防災世界会議の成果が反映されるよう、継続して働きかけていくことも重要だ。先述した国連市民社会「メジャー・グループ」の制度的問題も根本的解決に至ったわけではない。障害のある人もない人も国際社会の意思決定プロセスに公平に参加できるよう制度と環境を整備していくことで、真の意味でのインクルーシブな社会が実現されるのではないだろうか。

日本財団 BHNチーム リーダー
本山 勝寛(もとやま かつひろ)
(障害専門月刊誌『ノーマライゼーション』より転載)

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