今年の日本史のセンター試験に手塚治虫の漫画と文章を使った問題が出題されたというニュースが流れてきて、なんだか嬉しくなってしまった。
使われたのは、自伝的作品「紙の砦(とりで)」で、軍需工場に動員された主人公が隠れて漫画を描き続ける場面。満州事変以降の軍需産業と経済について解答を求めた。
同じ大問では、テレビアニメ「鉄腕アトム」が放映された高度成長期の世相や、手塚が同作品に込めた思いから戦後の科学技術と社会問題について答える小問も設けられた。(時事通信)
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おそらく、日本史の出題者は手塚治虫が大好きな歴史学者なのだろう。手塚作品には歴史を題材にした名作も数多い。火の鳥シリーズは、ヤマト編は古事記・日本書紀の古代日本を、鳳凰編は奈良時代、乱世編は源平合戦などを題材にしている。さらに古代ギリシャやローマ、未来まで舞台が往来し、哲学的な問いも込められた名作中の名作だ。私は高校時代に図書館で食い入るようにして読んだが、それまで本など全く読まなかったのに、図書館に通うようになり、本を読むようになったきっかけの作品だ。
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現代史でいえば、「アドルフに告ぐ」も名作だ。第二次世界大戦前後の日本とドイツを舞台にした作品。アドルフとは、日本に住むユダヤ人青年、その親友で日本人の母を持ちながらドイツでヒトラーの親衛隊に入ったドイツ領事の息子、そしてアドルフ・ヒトラーの三人を指す。ヒトラーにまつわる秘密を軸に三人のアドルフが紡ぎ出す人間ドラマと戦時下の矛盾に生きる人々の営み、歴史的事件が絡み合っておもしろい。手塚自身が「僕にとって歴史じゃなく現実だった。戦争の語り部が年々減っていくので僕なりに、漫画で伝えて、ケリをつけたかったんですよ。」と語っているように、戦争を経験した当事者である手塚治虫が、戦後世代である我々に、正義とは、戦争とはという大きな問いを投げかけている渾身の作品といえよう。
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他にも幕末を舞台にした「陽だまりの樹」もおもしろい。定番の坂本龍馬や西郷隆盛ではなく、適塾で学んだ医師を主人公にしているところが歴史への複合的な見方を提示してくれる。医師ということで、「ブラック・ジャック」と同様、医学生だった手塚のバックグラウンドや医療への情熱も楽しめる作品だ。
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世界史としても重要であり、かつ宗教を題材にした「旧約聖書物語」や「ブッダ」もぜひ読んでおきたい。手塚作品も含むお薦めの宗教マンガは以前にも紹介したが、世界史の源流や国際的教養を学べるだけでなく、人生の意味や世界観を省察するためにもよい作品だ。
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といった具合に、手塚治虫は歴史を含めて学べる作品が非常に多い。学校の図書室や図書館に置かれているものも多いだろうから、学生諸君にはぜひぜひじっくりと読んでもらいたい。センター試験で出題されたくらなのだから、教科書に載せてもよいのではないだろうか。もちろん、大人が読んでもおもしろいし、大いに学べるものが多い。個人的には、夏目漱石のように、紙幣になってもおかしくないと思うくらいだ。