クリスマスが近づいてる。言わずと知れたイエス・キリストの誕生を祝う日であるが、何の意味も考えずに、カップルの祭典のように日本中が浮かれている姿をみると違和感を覚える。今やキリスト教は世界宗教であり、聖書は史上最大のベストセラー、クリスマスは世界で最もたくさんの人に祝われる日と言えるだろう。大半の日本人にとってキリスト教もイエス・キリストも縁遠い存在だが、せめてこの時期くらい、彼がどんな人物だったのか考えてみるのもよいのではないだろうか。
さらにいえば、昨今はグローバル化時代に活躍できる人材の養成が声高に謳われているが、英語教育やMBAなどの話はよくでるが、世界を動かしている要とも言える宗教に対する識見はあまり語られていない。西欧社会は文化や学問から生活習慣にいたるまで、キリスト教抜きでは語り得ない。イスラム教も西欧の移民社会や世界の政治経済に深く関与している。五輪招致活動の際に当時の猪瀬都知事が失言したことは記憶に新しい。グローバル人材を語るなら、宗教的教養は決して外せない。
とはいえ、日本人にとって宗教って難しいし、ちょっと近寄り難い、といったところが多くの人の印象だろう。そこで、ちょっと恒例になってきたが、宗教について楽しく、分かりやすく、気軽に学べるお薦めのマンガ作品を紹介したい。
ガンダムの作画ディレクターでもある安彦良和氏が描くイエスの生涯。新約聖書の言葉を極力、忠実に使いながら、愛の教えを説いた聖人という枠だけに留まらず、ローマ帝国の巨大な権力とユダヤ教指導者の力に屈せず挑戦する革命児としてのイエス像も浮かび上がらせている。安彦氏は他にも数々の歴史マンガを書いておりどれも秀作だが、とりわけこの作品はお薦めだ。上記イエスは新約聖書のイエスの言行録である4福音書を基礎としているが、こちらは旧約聖書の内容をピックアップしてマンガにしたもの。さすが数々の歴史、宗教マンガを描いた手塚治虫の手に掛かっただけに、日本人には無味乾燥にみえる旧約聖書の物語/歴史もいきいきと描かれている。手っ取り早くユダヤ教のイエス以前の歴史をおさらいするのにもってこいだ。手塚治虫のどちらかというと得意分野である仏教の創始者ブッダの生涯を描いた作品。これは東大の学生時代に研究室に置いてあったのだが、卒業研究そっちのけではまった記憶がある。意外にあまり知られていないブッダの生涯についても学べるし、何と言ってもブッダの生き方を通して投げかけられる哲学的な問いが心に突き刺さる。高校生の教科書にしたいくらいの作品だ。4. ダライ・ラマ14世 (マンガで読む偉人伝 1)
- 作者:さいわい 徹
- 出版社/メーカー: マガジンハウス
- 発売日: 2009/03/26
- メディア: 単行本
5. マハトマ・ガンディー (対訳マンガ偉人伝)
- 作者:海老根 一樹
- 出版社/メーカー: IBCパブリッシング
- 発売日: 2011/07/06
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
本来なら世界三大宗教の一つであるイスラム教やマホメットのマンガも紹介したいところだが、政治的な難しさからか、あまり見かけない。学習漫画世界の歴史シリーズでは「世界の歴史 (5) ムハンマドとイスラム世界の広がり : イスラム教の誕生と発展」という巻が出ており、私も子どもの頃読んだ。今後、イスラム教を題材にした本格マンガ作品が出てくることを期待したい。
最後に加えたいのがこれ。いわば日本の歴史とともにあった宗教的な祭司主としての天皇論。小林よしのり氏の作品には賛否両論あるが、この作品については至極真っ当なことが書かれているように思う。特に政治的な君主としてだけでなく、国民の平和のために祈りを捧げる宗教的な祭主としての視点は、多くの現代日本人にとって新鮮だろう。ちょうど今日は天皇誕生日だがぜひ読んでおきたい一冊だ。今や、宗教に対する識見は欠かすことのできない国際的教養の一つだ。冬休みにマンガで宗教を読みながら、人生を省みるのも悪くないのでは。
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