まなブロ by 本山勝寛 教育イノベーター・日本財団子どもの貧困対策チームリーダー

教育イノベーター本山勝寛の学びのススメ日誌。極貧家庭から独学・奨学金で東大、ハーバード大学院に通い、国際教育政策修士課程修了。日本財団子どもの貧困対策チームリーダー。『今こそ「奨学金」の本当の話をしよう。』 『最強の独学術』等著書多数。

「産後クライシス」と「危機に立つ国家」

「産後クライシス」なる言葉が拡散している。産後に夫婦関係が急激に悪化する現象のことを指すらしい。

この火付け役はNHKの情報番組「あさイチ」で、先日、東洋経済オンラインでその番組取材を踏まえた連載が始まると、ネット上で話題になり、同サイトでも閲覧数1位に、Amazonでも10位近くにランク入りしていた。

(009)産後クライシス (ポプラ新書)

(009)産後クライシス (ポプラ新書)

東洋経済の記事を一部引用すると、以下のような現象が例外ではないという。

夫はなぜか不機嫌な妻に、どうにか気を遣おうとしていますが、妻はそんな夫にいらだつばかり。全身全霊で、夫への不満を表現しています。
夫によると、もともと夫婦仲は非常によかったといいます。それなのに、いったい何が原因で、こんなにも殺伐とした関係になってしまったのでしょうか?(中略)
その主な原因は、子どもを出産した妻が、産後の夫の赤ちゃんへのかかわり方や家事の分担に、強い不満を持つことから起こると考えられています。

そして、紹介されているベネッセの調査によると、「本当に愛しているか」という質問に対して、妊娠期間には男女ともに74.3%がはいと答えたのに対して、子どもが2歳児期には男が51.7%、女が34.0%にまで激減している。特に夫よりも妻の愛情が急激に冷めてしまうことがこの特徴だ。さらに、離婚した時期に関する調査でも、末の子が0〜2歳のときが3割を占め最多だという。「産後クライシス」がセックスレスにつながり、さらには離婚の主な原因になっているということだろうか。

もともと、産後うつ育児ノイローゼという言葉で、この時期に母親が精神的に不安定になりやすいことはよく語られてきた。しかし、それが女性だけの問題ではなく、夫婦の問題であり、男にとっての問題であり、社会の問題であるということを表現しているという点で産後クライシスとはよく言ったものだと思う。

いまや日本でも、3組に1組の夫婦が離婚する時代になっている。誰もが全く他人事てはないわけだが、離婚したくて結婚した人など誰もいないだろう。ましてや、子どもが生まれた後であればなおさらである。心理面のみならず、経済的コストも尋常ではない。多くの場合、女性はシングルマザーとしての苦労を、男性は養育費の負担を強いられる。

その人生に長く重くのしかかるかもしれないコストを考えれば、産後の育児期という限定された期間に、もう少しだけ(とはいえ男にとってはかなりかもしれないが)家事育児を分担することに注力することは損な話じゃないのではないか。育休をとって数ヶ月間だけ収入が半分になったところで、離婚したら払い続けることになる養育費の比ではない。というか、妻を幸せにするために結婚したはずなのに、愛を冷めさせてしまうってどうなんだろう。

会社も会社で、父親になった男性社員に残業ばかりさせて、もし離婚に追い込んでしまったら、その責任を取る覚悟はあるのだろうか。その心理的影響が社員の安定感やモチベーションにまで及び、業績にも反映することまで考えているのだろうか。

日本の社会、特に男たちは気づいてない。
かわいい赤ん坊が生まれたら、それはおめでたいことであると同時に、もし中途半端な気持ちでいれば、深刻な「危機」の始まりであることを。女性の立場に立って考えて見れば分かる。子どもが生まれたのにいつまでも中途半端な気持ちでいたら、待っているのは幼児虐待であり、子どもの死だ。産後クライシスは、夫婦の危機であり、子どもにとっての危機であり、社会の危機であり、国家の危機だ。

レーガン政権は「危機に立つ国家:A Nation at Risk」という有名な報告書でアメリカの教育水準が低下し、国際的な競争力を失っていることを指摘し、教育改革に乗り出した歴史がある。私には、いまの日本がそれ以上の大きな危機に立っているように思える。つまり、少子化の危機、離婚率増加の危機、そして根本的には各家庭に夫婦愛がなくなっているという危機だ。

先日、「人生の9割は親の夫婦愛で決まる?」という記事を書いた。実は、これを敷衍させて考えると、国家の行く末の9割は国民の夫婦愛で決まるという仮説も成り立つのではないかと思うほどである。

産後クライシスは、国家すら危機に立たせることになるだろう。少子化が国家の社会保障制度を破綻させ、離婚の増加が母子家庭と生活保護世帯を増加させ、精神的不安を抱えた子どもたちがやがて大人になっていく。いま、日本という国の「家」は大きな危機に立たされているのではないか。