本山勝寛 4kizフォーキッズ代表 公式ブログ | Katsuhiro Motoyama's Official Blog

教育イノベーター本山勝寛の学びのススメ日誌。極貧家庭から独学・奨学金で東大、ハーバード大学院に通い、国際教育政策修士課程修了。日本財団で教育、国際支援、子ども支援事業に携わり、EdTechスタートアップを起業。 子供向けSNSフォーキッズを立ち上げる。『好奇心を伸ばす子育て』『最強の独学術』等著書多数。6児父4回育休。

育休3年再考、地方公務員は20%が利用

安倍首相が「育休最長3年制」を企業に要請した直後、「投票では育休3年が最多なのに、支持論者が私一人なので、敢えて再度反論してみる」という記事を書かざるを得なかったくらい、支持論者がいなかったが、ここにきて少しずつ冷静な議論がみられるようになってきた。

代表的なのは産経新聞に掲載された中京大教授の松田茂樹氏の主張。以下にその内容を抜粋する。

 ■出産離職を食い止める
 −−育休3年への評価は
 「保守政権にしては新しい取り組みだ。女性の社会進出を進めることになるだろう。日本では多くの女性が第1子の出産の際に離職している。これは20年来、変わっていない。つまり、最長1年半という現行の育児休業制度では、出産する女性の就業継続に対応できていない。出産で、女性の6割以上は仕事を辞めているが、子供が2〜3歳になると復職している。ただ、産前は正社員でも、復帰後はほとんどがパートタイムなどの非正規雇用層に流入している。育休を3年に延長することで、出産による離職者のうち何割かは、辞めずに正社員にとどまることができる

 −−海外の育休の取り組みは
 「世界的に育休3年は珍しくない。少子化対策と女性の社会進出を進めるうえで、日本のモデルケースとなる国にフランスとスウェーデンがある。フランスは最長3年間は育児休業がとれる。スウェーデンも、男性を含めて労働日数で480日(休日を含め約1年10カ月)の休業が認められている」

 −−3年も必要ないという女性もいる
「休業の取得期間が多様化すれば、待機児童問題の解消にも貢献する。現在は(所得保障のある)育児休業が基本的に1年のため、子供が1歳の4月に保育所入所が殺到し、大量の待機児童を生み出している。このため、育休を早く切り上げ、比較的入りやすい0歳の4月に入所させる競争が起きている。しかし、育休3年で休業期間の選択肢が増えれば、1歳児の過度の入所集中を分散できる。0歳児保育に慌てて預ける競争も解消されるため、保育所も0歳児の受け入れ枠を減らして、1〜2歳児クラスに振り分けることができる。3歳であれば幼稚園も受け皿になるので、待機児童は減る」

 −−3年も休むと、仕事の能力や意欲が低下するとの懸念もある
 「休業中に勉強や会社との情報交換を行うなどの仕組みで解決できる。ただでさえ男性の育児休業が取りにくいのに、3年と掲げることでより女性に育児負担が偏るという指摘もある。だが、これは男女の給与格差の問題だ。休業中の所得保障を短期間でも100%にするなどの政策で、男性も育休を取りやすい環境にできるはずだ」

 −−女性のキャリアの妨げや、採用抑制につながるとの見方もある
 「それは短期間の育休で復帰したいというキャリア重視の女性や企業側に寄った考えだ。こうした問題は、女性の積極採用に助成金を出すなど政策的にカバーできる。それよりも社会全体で考えたときに、6割以上の女性が現状の育休制度で辞めているという現実がある。この層が継続して働くことに重点を置くべきだ。これには育休3年が効果を発揮すると期待している」

きわめて冷静な論理のように思える。この産経の記事自体は、反対論の立場でワーク・ライフバランス社長の小室淑恵氏の主張も並べて紹介しているが、要は「育休3年よりも長時間労働の見直しが重要」というもの。長時間労働の見直しは確かに育休3年よりも重要かもしれないが、だからといって育休最長3年制を反対する理由もない。ちなみに、最近ブロゴスで「育休3年よりも子どもの看護休暇を」と主張していた方がいたが、これは既に年5日間法制度化されている。多くの人が「育休3年よりも○○」と優先順位論で反対を主張しているが、育休3年制に税金コストがほとんどかからない以上、的を得た主張とは言い難い。保育所増設も含めて、子育て支援はあらゆる政策を全面展開すべきだ。

また、フジサンケイビジネスアイでは中小・ベンチャー企業を対象に育休3年のアンケートを実施している。その結果、賛成が45%と半数近くを占め、「反対」は27%、「わからない・どちらともいえない」は28%だった。「賛成」と回答した企業からは、「女性が仕事に復帰する選択肢が増える」(製造業)、「第1子出産で退職する人が多いが、3年育休が導入されれば仕事を続ける人が増える」(建設・通信業)との意見が多かった。「育休3年なんて大企業と公務員だけが恩恵を受けて、中小企業には関係ない」という反論も多かったが、このアンケートをみる限りそうとも言えないのではないだろうか。

ちなみに、先日のエントリーでは、国家公務員の場合、育休を24ヶ月超取得(つまり3年制を利用)している方が12.1%。12月超24月以下は33.7%と最多で、45.8%が民間企業の通常の1年の枠を超える期間の育休を利用している、と紹介した。最近調べてみて分かったが、地方公務員(平成22年度)になると、2年超が20.5%(2年〜2.5年が7.5%、2.5年以上が13.0%)、1年以上2年未満が40.8%だ。民間企業の通常の育休期間である1年の枠を超える利用者は実に61.3%だ。公務員といえども地方ではエリート的存在。その地方公務員が5人に1人は育休3年制を利用し、60%以上が1年以上取得していることは、決して無視できない数字ではないだろうか。

民間企業ではここ20年、どんなに育休取得率が上がっても、出産時の退職率がほとんど減少していないが、公務員ではかなり減少している。1981年に25〜29歳の女性国家公務員の離職率が7.1%と他の年齢と比べて突出していたのに対して、2000年以降には約2%に減少している(人事院資料参照)。この間に行われたのが、1991年の育児休業法の制定であり、公務員は育休3年制が敷かれたわけだ。

育休最長3年制は、主に出産を機に辞めている層のための施策である。そして、1年でも十分という方にとっては、あと数カ月から半年あれば保育園に慣れるまで休めるといったように選択肢を広げる制度だ。その点を踏まえたうえで議論を進めなければ、「出産時の高い退職率」という問題は解決に向けて前進しない。

「育休世代」のジレンマ 女性活用はなぜ失敗するのか? (光文社新書)

「育休世代」のジレンマ 女性活用はなぜ失敗するのか? (光文社新書)