本山勝寛 4kizフォーキッズ代表 公式ブログ | Katsuhiro Motoyama's Official Blog

教育イノベーター本山勝寛の学びのススメ日誌。極貧家庭から独学・奨学金で東大、ハーバード大学院に通い、国際教育政策修士課程修了。日本財団で教育、国際支援、子ども支援事業に携わり、EdTechスタートアップを起業。 子供向けSNSフォーキッズを立ち上げる。『好奇心を伸ばす子育て』『最強の独学術』等著書多数。6児父4回育休。

友情と勉強は相反するのか?〜韓国で話題騒然の「友情破壊広告」を受けて

韓国で大手塾のこんな広告が物議をかもしているらしい。

「新学期が始まったから、君は友情という名分で友達と遊ぶ時間が増えるだろう。そうなると君が計画した勉強は後回しになるよね。でもどうする? 大学入試の試験日は後回しにできないよ。もう迷っちゃだめ。友達が君の勉強を代わりにしてくれるわけではない」

日経ビジネスオンラインの記事で紹介されていたもので、「友情破壊広告」との批判が相次ぎ、ツイッター上で話題となったそうだ。
私も1年間ほど韓国に住んだことがあり、彼の国の教育熱の高さと受験競争の激しさは肌で感じたことがある。毎年、日本のセンター試験ような全国共通試験がある日は、国中がお祭り騒ぎになる。遅刻しそうになった受験生をパトカーがサイレンを鳴らしながら受験会場まで連れていったり、後輩たちがどんちゃん騒ぎで校門の前で応援したり、親たちが泣きながら祈ったりといった光景が見られる。そんな韓国だから、この広告と騒動もある意味、想定内な気がする。
しかし、実は日本だって、韓国のことを指差すような立場ではなく、社会的には友達が大事だという建前が成立していたとしても、本音のところは多くの日本人(特に親が)上の広告と同じ考えなのかもしれない。

では、友情は果たして勉強の邪魔をするのだろうか?
友情と勉強は、どちらかを取ればどちらかを捨てなければならない、相反するゼロサムゲームなのだろうか?
友達と遊ぶ時間が増えれば、確かに勉強時間は減る。受験勉強の時間を確保しようと思ったら、友達からの遊びの誘いを断らなければならないかもしれない。

しかし一方で、よき友人関係やライバル関係が勉強のモチベーションを高めることもある。私たちが教科書で学んだ『論語』の最初の言葉を思い出してほしい。

子曰く、学びて時に之を習う、亦説(よろこ)ばしからずや。
朋あり遠方より来る、亦楽しからずや。

孔子論語で何よりも最初に語ったように、親しい友人と学びを刺激し合うことは、どんな遊びよりも楽しい。いわば、学びを共有する真の友人であり、「知のライバル」を持つことは人生の最高の遊びなわけだ。そこで、韓国の大手塾広告がかもした物議に投げかける意味で、以前に書いた記事の一部を再掲したい。

私は高校時代、友人たちと全国を旅して回ったことがある。兄の友人たちに連れられて車で名所を訪ね、テントをはってキャンプした。地平線のみえる北海道の雄大な大地に感動し、初めてみる満点の星空に心奪われた。そして、友人たちと将来の夢や希望についてあれこれと語り合った。総理大臣になりたいだとか、ノーベル賞をとりたいだとか、子どもじみたバカげた話だったが、広大な大自然が全て包んでくれた。

旅から帰ってきた後、いろんな疑問が湧きおこり、図書館に通うようになった。そこで、人生で初めてマンガ以外の本を自ら手に取って読破することができた。司馬遼太郎の『竜馬がゆく』だ。

長編の歴史小説である『竜馬がゆく』を、私が初めて読破することができた理由は二つある。一つは、「漫画日本の歴史」や「漫画人物日本の歴史」シリーズを買いそろえていて、幕末や坂本龍馬の巻も読み重ねていたのに加え、直前にテレビアニメ「お〜い竜馬」に痛く感動し、この時代と人物に興味を持ち始めたからだ。ちなみに、漫画歴史シリーズは親が兄たちに誕生日プレゼントとして買い始めたもので、男兄弟3人で全巻をそろえた我が家に代々伝わるバイブルである。

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私が初めて本を読破できた二つ目の理由は、まさに論語の言葉「朋あり遠方より来る、亦楽しからずや」にある。日常から離れた旅のなかで友人たちと将来の夢を語り合った自分たちの姿が、坂本龍馬西郷隆盛高杉晋作といった幕末の志士たちの姿と重なってみえたのである。若者たちが日本を変えるために藩をこえて日本中を駆け巡り、熱く語り合う。レベルには雲泥の差があるが、自分を竜馬、友人たちを同志だと思い込みながら数巻にもわたる長編を一気に読んだ。これが、後に本の虫となる私の初体験だ。マンガ以外の本が大嫌いだった私にとって、友人との語り合いがなければ決してできなかったはじめの一歩だったのである。そしてその後、勉強のモチベーションも一気に上がった。

「なんで勉強しなければならないの?」

年頃になると誰もがぶつかる疑問。その原因の一つが、点数という杓子定規で友人たちと比べられ、自分の価値が勝手に決めつけられているのではという反感だ。ときに、それによって友情を犠牲にさせれらることもある。この疑問を解き得るヒントが、まさにこの「朋あり遠方より来る」に隠されている。孟子荀子といった孔子の弟子たちだって、友人関係、知のライバル関係によって、儒教という世界を変える知の体系をつくってしまった。
桂小五郎高杉晋作も、西郷隆盛大久保利通も、内村鑑三新渡戸稲造も、マルクスエンゲルスも、ソクラテスプラトンアリストテレスも、みんなそうだ。知のライバル関係によってその知が大いに発展したといってよいだろう。学びにおける盟友関係が成立するとき、世界をひっくり返してしまうほどの力が生まれることがある。そして、実におもしろい。

もちろん、ときに孤独のなかで一人学ばなければならないことが大いにある。しかし、真の友情は勉強のために犠牲にされるものではなく、むしろ勉強を無限に加速させるものである。

受験生よ、真の友人をもて!
学びたい人よ、知のライバルを見つけよう!
自分が考えていること、疑問に思っていること、目指していることを、勇気を出して語り合ってみよう。

そうすれば、知の聖人、孔子が2500年前に語った言葉――「学びて時に之を習う、亦説ばしからずや。朋あり遠方より来る、亦楽しからずや。」――この意味が深くふかく心のずぅっと奥の方から感じられることだろう。

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